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多変量時系列予測モデル DecompSSM

DecompSSMは、ニューロジカが開発した多変量時系列予測モデルである。信号処理分野のトップカンファレンスであるICASSP 2026に採択された。電力・気象・交通などの標準ベンチマーク4種・32設定のうち28設定で、既存手法を上回る最高精度を達成している。この研究は、当社が進める時系列基盤モデル開発の土台となる技術である。

時系列予測の何が難しいのか

電力の需要でも、気象でも、設備のセンサーでも、現実の時系列はひとつの動きでできていない。ゆっくり変わるトレンド、日や週で繰り返す周期、そのどちらにも属さない不規則な残差。性質の違う成分が混ざり合ったものが、観測される1本の系列である。

この混在に対して、これまでの手法は大きく3つの流派に分かれてきた。移動平均のような固定ルールで分解する方法は、ルールに合わないパターンを取りこぼす。潜在空間で分解を学習する方法は、成分ごとの性質に合わせた構造を持たない。前処理で周期成分を切り出す方法は、分解が予測の学習と切り離されており、予測精度のために分解を調整できない。

つまり「分解の仕方」と「予測の学習」を、成分ごとの性質に合わせて一気通貫で最適化できていないことが、共通の課題だった。

DecompSSMの設計

DecompSSMの全体構成。トレンド・周期・残差を担当する3本のGT-SSM分岐(左)と、入力に応じて時間スケールを調整するAdaptive Step Predictorを組み込んだGT-SSMの内部構造(右)

DecompSSMは、この分解そのものをモデルの構造にした。トレンド・周期・残差のそれぞれを専任で担当する3本の並列分岐を持ち、全体をひとつの予測モデルとして端から端まで学習する。中核となる仕組みは3つある。

成分ごとに時間スケールを変える。 各分岐はGated-Time SSM(GT-SSM)と呼ぶ状態空間モデルで、入力に応じて自身の時間解像度を調整するAdaptive Step Predictorを備える。トレンドは粗く長い時間で、残差は細かく短い時間で。担当する成分の性質に合わせて、それぞれの分岐が異なる速さで系列を読む。活性化関数と時間スケールの初期値も成分ごとに設計してあり、なめらかなトレンド、準周期的な変動、スパースで高周波な残差という帯域の違いを構造として持つ。

変数間のずれを直す。 多変量の時系列では、変数ごとにバラバラに処理するとスケールやタイミングの不整合が蓄積し、ノイズや欠測で成分の割り当てがずれていく。Global Context Refinement Module(GCRM)が変数をまたぐ共通の文脈を集約し、各変数に残差として還元することで、変数間の同期を保つ。

分解を損失関数で保証する。 3成分を足し合わせると元の系列に戻ること(再構成)、成分同士が重複しないこと(直交性)を補助損失として課す。分解が「それらしい見た目」ではなく、学習目標として明示的に強制される。

結果

標準ベンチマークでの比較結果。ECL・Weather・ETTm2・PEMS04の32設定中28で最高精度(太字)を達成

電力消費(ECL)、気象(Weather)、変圧器温度(ETTm2)、交通流(PEMS04)の4つの標準ベンチマークで、Transformer系・線形系・畳み込み系の代表的な7手法と比較した。32の評価設定のうち28で最高精度を達成し、全ホライズン平均では次点のPPDformerに対してECLでMAE 2.2%、WeatherでMAE 2.3%、ETTm2でMAE 2.6%の改善となった。

アブレーション実験では、成分ごとの時間スケール調整を担うGT-SSMを外したときの性能低下が最も大きく、この設計が精度の中核であることを確認した。また、内部の系列処理をAttention、Mamba、Mamba-2に置き換える実験では、いずれも性能が低下し、変数間の依存関係を状態遷移として明示的に扱えるS5の構成が多変量時系列に適していることが示された。

この技術が意味すること

トレンド・周期・残差という分解は、特定の業界の話ではない。電力にも、金融にも、医療にも、物流にも、同じ構造が現れる。成分ごとに時間スケールを適応させるという設計は、分野の異なる時系列をひとつのモデルで扱うための基礎であり、当社の時系列基盤モデル開発はこの延長線上にある。

論文の将来課題として、分岐の数を周波数帯から自動決定する拡張を挙げている。分解の粒度そのものをデータから学べるようになれば、適用範囲は一般の信号処理領域へさらに広がる。

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